16th International Symposium on Cells of the Hepatic Sinusoidは2011年9月22日(木曜日)〜24日(土曜日)の3日間、
イタリア共和国トスカーナ州のフローレンスで開催されました。今回の会長はフローレンス大学内科学のMassimo Pinzani教授であり、
スタッフの方々と手作りに近い形のアットホームなシンポジウムを開催されました。
私は時差ボケ解消も兼ねて9月20日(火曜日)の夕刻にフランクフルト経由でフローレンスに到着しました。
もう何度も来ている街ですが、いつきても“花の都”はわくわくします。
学会で予約してもらったホテルはL’Hotel de’ Mediciでサンタマリアノベッラ駅の北側徒歩10分程度のヨーロッパ調ホテルでした。
例によって部屋は狭く、シャワーしかありませんが、高速WiFiが無料で利用できたのが幸いしました。
もう夜でしたので、この日はホテル近くのイタリア料理店を紹介してもらって1人での夕食になりました。
紹介してもらったのがサンマルコ国立博物館近くあるAccademia。
注文したのはビール、サラダ、パスタでしたが、このパスタが絶妙の味で一気にテンションがあがりました。
やはり、本場は違うなあ。旅の疲れもあり、この日は熟睡しました。
21日(水曜日)はオフでしたので、隣町のピサまで観光に出かけました。
フローレンスから電車で約1時間、1等車でも9.5ユーロで行けます。私は何度もフローレンスに来ていますが、ピサ訪問は初めてでした。
ピサというと有名なのは斜塔です。ピサ中央駅から、
フローレンスほどは洗練されていない町中を歩くこと約20分ばかりで市旧市街の北にあるミラコリ広場に着きました。
ここは斜塔とともに大聖堂、洗礼堂などが集まる観光名所になっており、また、建物のまわりには芝生が敷き詰められているため、
寝そべって昼寝をしている人が多く見られ憩いの場になっていました。
ピサの斜塔は1173年の建設開始以来、徐々に傾斜しているとのことですが、直に見ると何とも不思議な光景でした。
その他、いくつかの見所を見学してフローレンスに戻りました。夜は、兵庫医科大学第一外科の藤元治朗教授ご家族とともにTRATTORIA ACCADIに行きました。
ここは日本人シェフが創るトスカーナ料理で有名です。
そのシェフに無理を言っておまかせ料理を作ってもらい、美味しいポルチーニ茸、T-ボーンステーキなどをお腹一杯たべました。
これまた絶品。日本では熟睡ができない私も2日連続で深い眠りに落ちました。
さて、22日(木曜日)に学会が始まりました。会場はTeatro della Pargolaというオペラハウスでした。
この劇場は1656年にメディチ家の支援で建設され、イタリアで最も古いものと考えられている様で、現在も年間250公演で使われているとのことでした。
学会はPinzani先生のopening remark で始まりました。
ここで特筆すべきことは、この学会の直前、肝臓の線維化研究で多数の業績を残されたMarcos Rojkind先生がお亡くなりになられたため、
追悼の言葉が述べられたことです。Rojkind先生は76歳でしたが、依然としてNIHグラントを取得されて研究に意欲を持たれている中での突然の死でした。
改めて哀悼の意を表します。学会全体はstate of the art lecture 2、tutorial lecture 2、invited lecture 15、selected oral presentation 23、
そしてポスター発表が59という内容でした。即ち、専門家による30分間の総説講演を聴きながら、抄録から選ばれた15分間の最新研究成果を聞くという構成であり、
このスタイルは日本でも今後汎用されるべき、と思われました(日本では特別講演が長過ぎて、一般演題が短すぎる)。
1日目は、「Sinusoidal cells and the regulation of hepatic inflammation」, 「Nuclear receptors and liver cells」,
「Sinusoidal cells in alcoholic and non-alcoholic steatohepatitis」の3セッションが行われ、
日本からは理研の小嶋聡一先生がHCV NS3プロテアーゼによるTGFβ活性化という興味深い知見を、
研究現場のリアリティーを交えて口演発表されました。私はtutorial lectureで星細胞とmicroRNAに関してどこまで解析が進んでいるのか、
世界の研究の現状を講演しました。「Selected poster overview」ではポスターの中から興味深い内容のものを特に選定して司会者が紹介するというコーナーが設けられました。
2日目は、「Sinusoidal cells in metabolism, portal hypertension, ischemia-referfusion injury and graft preservation」と
「Sinusoidal cells, inflammation and the microbiota」の 2セッションが行われました。
Smedsrod先生のいつもながらの明快なスカベンジャー受容体の講演を拝聴できましたし、
この学会としては珍しく腸内細菌とNASHや肝炎との関係がテーマに取り上げられたことは特筆すべきです。
2日目も「Selected poster overview」が行われました。2 日目の午後はこの学会独特のエクスカーションですが、
今回はガイド付きの市内観光が行われました。
観光は通常、建物をながめて終わってしまいますが、その背景にある歴史的意味
(多くはやはり戦いに使用されたり、防御のためのもの)を知ることができたことは幸いでした。
最終日の3日目は「Sinusoidal cells in alcoholic and non-alcoholic steatohepatitis (II)」
「Nanotechnologies and advanced therapeutics」「The role of sinusoidal cells (liver stroma) in primary and metastatic liver cancer」
3セッションが行われました。お気づきのように、これまでのISCHSミーティングとは異なり臨床に即した話題、
特にNASHやアルコール性肝障害、が取り上げているのが今回の学会の特徴です。
私個人的にはDavid Semela先生の「Methods in Hepatology」コーナーにおける「Angiogenesis」の講演は、
血管研究における歴史的背景や細胞の分離法の再紹介などがあり、印象にのこりました。
最後の癌のセッションでは大阪市大Le先生のサイトグロビンと発癌、山口大学高見先生の骨髄移植療法による発癌抑制の発表が行われ、高く評価されました。
学会の閉会にあたり、「Marco Foschi Prize for Research in GI Oncology」の表彰がありました。
この賞は、膵臓がんで亡くなった元フローレンス大学のAssociate ProfessorであったFoschi氏の家族が、
癌の研究を行う若手研究者を奨励するために設立されたとのことです。授賞式にはFoschi氏の奥様と子供さんが参加されました。
光栄なことに私達の施設のLe Thi Than Thuy先生が選出され、Instituto Toscano TumoriのdirectorであるLucio Luzzatto氏から記念品が手渡されました。
全般に、今回の学会はある分野のスペシャリストにoverview講演を依頼し、若手が口演とポスター発表をおこなうという形式であったと思われます。
遺伝子発現の制御など最新のmolecular biology的話題は少なかったと思われましたが、上述したように臨床に即した話題を盛り込み、
質の高い学会でした。ポスター会場が狭く、議論が疎らであったことは残念な気がします。
ポスター発表から優秀演題を選定して短時間の口演をしてもらうような工夫も必要な気がしました。
次回は2013年に大阪で開催します。皆様の参集をお待ちしております。